介護福祉関連施設について知る(1)

「老人ホーム」を知っていますか?

みなさんは「老人ホーム」*1 と聞いたとき、どんなイメージを持つでしょうか。私が介護の日本語の仕事に就く前、いわゆる老人ホームには「足が悪くて歩けない人や寝たきりの人、認知症の人たちがいる場所のようなものしかない」と思い込んでいました。

介護の日本語教育に関わるようになってから、ようやくその認識が誤りであったことを知りました。老人ホームには、実にいろいろな種類があり、介護度や働き方の違いで、そこで行われる言語活動が異なっているということもわかってきました。また、広く「介護福祉関連施設」という表現をすれば、養護老人ホームや自立型のケアハウスなど、そこには介護を必要としない人たちもいらっしゃいます。

日本人の私でさえまったく知らなかった、介護福祉関連施設のことばの世界。外国人介護職の人たちにとっては、さらに知らないことだらけでしょう。介護の日本語教育に携わるには、まず、介護福祉関連施設にはどのようなものがあるか、を知る必要がありそうです。


介護福祉関連施設には、社会福祉法人による運営など公共的な性格を有する施設と、株式会社等などの民間施設があります。このうち、EPA介護福祉士候補者や技能実習生の人たちが働いている場所の多くが、公共的な性格を有する施設です。

公共的な性格を有する施設には、次のような種類があります。

  • 軽費老人ホーム(ケアハウス):低所得の高齢者が入居できる
  • 特別養護老人ホーム:要介護度3以上の人が入居できる
  • 介護老人保健施設:在宅復帰を目的としたリハビリを行うことができる
  • 介護医療院:長期的な療養サービスの提供が受けられる

一方、日本人の配偶者として定住している外国人の中には、民間の有料老人ホームなどで働いている人もいます。民間の施設には次のような種類があります。

  • 介護付き有料老人ホーム:介護度に応じたサービスが受けられる
  • サービス付き高齢者向け賃貸住宅:比較的自立した人が必要に応じて介護を受けられる
  • グループホーム(認知症対応型):認知症の人が集まって暮らす

また、公共的な性格を有する施設でも、民間でも、滞在型ではなく自宅から通うタイプのデイサービスなどもよく知られています。ここには比較的元気な高齢者の方々が通っています。

いろいろな介護福祉関連施設を訪ねてみて、わかってきたことがあります。

特別養護老人ホームには重度の認知症の利用者さんが多く、寝たきりなどでほとんど言語のコミュニケーションがとれない人が多いです。そのため、職員からの一方的な声かけだけになりがちで、利用者との「言語のコミュニケーション技術」がなかなか伸びないということです。

一方で、要介護度が低い人たちが多い施設では、職員と利用者間で活発な会話がおこなわれる傾向があります。そこでは「傾聴」や「共感」といった、言葉を用いた対人援助の基本的な技術が磨かれやすいようです。

同じ「介護業務」を行っているにもかかわらず、施設の種類によって得られるコミュニケーション技術に違いがあるというのは、とても興味深いことです。同時に、「介護の日本語」はひとくくりにできない、なかなか難しい分野であるということが言えるでしょう。


注:
1. 老人福祉法上、老人ホームとは、特別養護老人ホーム(ただし介護保険法の指定を受ければ介護老人福祉施設となる)、養護老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)の3つを指します。有料も老人ホームという名称がついていますが、上記3つとは法的位置づけが異なります。


HONUA

日本語教師。専門は日本語教育学。留学生、定住外国人、外国人介護従事者への日本語教育を行う。これまでに、EPA介護福祉士候補者、技能実習生、定住外国人に対する介護の専門日本語のコースデザイン、教材開発、教育実践に従事してきた。