EPA候補者の学習教材ガイド(4)

国家試験対策シリーズの学習例

国家試験対策シリーズとは

前回の記事では、EPA介護候補者2年目の学習教材と、それと同じ時期に活用できるサイトや教材を紹介しました。

施設に配属され介護業務をしながらの1年は、きっと候補者も受け入れ施設側も慣れることで大変だったことと思います。そんな中、2年目には「介護福祉士国家試験」に向けた専門的な学習が始まるのです。その時期に、どうやって知識を身に付けていけばいいのでしょうか。

今回は、JICWELS(国際厚生事業団)から支給される『外国人のための介護福祉士国家試験対策』のシリーズ(以下、「国家試験対策シリーズ」)を使った学習方法の一例を紹介します。


候補者の予習と教師の準備

「国家試験対策」と聞くだけで、勉強が大変そう...と思いますよね。どのようにしたら、うまく学習を進められるのでしょうか?「国家試験対策シリーズ」を使って学習するにあたって、私たちが作成した補助プリントの内容、授業の流れと指導のポイントを紹介します。

今回の方法で学習に使ったテキストは、以下の3冊です。

国家試験対策シリーズは、やさしいことばで説明がしてあるので、候補者も理解がしやすいでしょう。そこで、学習内容を整理するための補助教材(プリント)を作成し、テキストと併用して学習を進めました。

私たちの実践の場合、候補者への学習支援は1週間に1回、3~4時間です。この限られた時間だけでは学習はなかなか進みません。候補者の自律学習を促すためにも、候補者には予習をしてもらうことにしています。

候補者の予習

次回の授業で学習する「国家試験対策シリーズ」の範囲を候補者に知らせ、対応するプリントを配ります。まずは自分でテキストを読んでもらい、プリントの答えを考えてから授業に臨んでもらうようにします。

教師の準備

候補者に配るプリントについて説明します。このプリントは、テキストの内容の整理と、理解度を確認するためのものです。

候補者は1年目に『介護の言葉と漢字ハンドブック』で専門的語彙を学習し、現場での実務からもたくさんのことを習得(体得)しています。ただ、それらのことをテキストの文章と結び付けたり、自分で説明したりすることは難しいと思われます。

そこで、以下のような種類の問題を準備します。『「介護」-2 生活支援技術1「自立に向けた移動の介護」』のプリントを例に挙げます。

テキストから重要なポイントを答える問題

テキストの説明の文章や表から、問いに対する答えを抜き出すものです。



ポイントを口頭で説明できるようにする問題

以下は、該当する介助の理由などを、文で説明をしたり、口頭で説明したりできるよう促す問題です。この例では、「体位交換でクッションを活用する」ということは業務内で行っていることですが、その原理や根拠を理解しているかを確認しています。


実際の授業の流れ

1. 予習の確認+テキスト内容の理解の確認

あらかじめ読んできた範囲について、確認をします。このとき候補者は、すでにプリントに書き込みをしてきていると思われますが、そのプリントは教師が預かり、候補者には答えの部分が空白のプリントを提示しながら、口頭で確認をするといいと思います。

これは、完璧に答えを覚えていることを問う、というよりも、候補者が、テキストで読んできたことを、自分の日本語で説明できることが重要、ということです。テキストの文をそのまま読み上げるだけでは、理解度は確認できませんよね。候補者が専門用語などを意訳した日本語で説明していた場合には、テキストを見ながら確認するなどして振り返るようにします。

実際にやってみて

  • 候補者が自分で読めないところがある
  • 候補者が答えられない問題がある
  • 候補者の理解が足りないように感じられる

といった場合、教師は候補者といっしょにテキストを読みます。候補者がどこでつまずいているのかを、ひとつひとつ確認していきます。専門語彙がわからなかったのか、文章が読めなかったのか、表からポイントを抜き出すことができなかったのかなど、わからないところを埋めていく作業を丁寧に行います。

2. 頭の中の知識をさらに整理

国家試験対策シリーズの『新カリキュラムⅠ・Ⅱ・Ⅲ これだけは覚えよう!「ワークシート」』は、図表などの穴埋めをすることで、知識の整理ができます。学習項目によっては、さらに自分なりの表にまとめる、語彙マップなどを作成する、口頭で説明を述べる、などの方法を使って整理することで定着を促せます。

3. 問題で確認

国家試験対策シリーズの『新カリキュラムⅠ・Ⅱ・Ⅲ 問題集』を使用し、その中の「一問一答問題」や「○×問題」、そして「国家試験型問題」で、理解の確認をします。

1や2の段階では分かっているつもりでも、いざ日本語で書かれた試験問題文になると、答えが分からなくなってしまうこともあります。そんなときは、適宜1や2に戻って、しっかりと確認をしましょう。ここで理解不足があると、3年目の試験対策がとても大変です。

プリントの準備は大変!

補助教材のプリントなどを使用するかどうかは、EPA候補者の学習状況、確保できる学習時間などによるでしょう。また、プリントの準備が難しい場合もありますよね。そのときには、候補者には口頭での説明をどんどんしてもらう、学習時間に表などにまとめてもらって説明してもらうなどの作業を取り入れるといいですね。

介護の背景をもたない日本語教師は指導が大変?

実は私たちも介護の学習や業務の経験のない日本語教師なので、国家試験対策シリーズを扱うと、なかなか内容がイメージできないところも出てきます。そうした場合、候補者には「(介護現場を熟知した)介護職員の方に聞いてくること」を宿題として提示してみてください。正しい知識が身につきますし、候補者が日本語教師に説明をするという作業は候補者の自信にもつながりますよ。

この学習がどんなところで役立つ?

国家試験対策として学習した知識ではありますが、候補者には、介護現場で普段自分がしている業務の原理や根拠を知ることが、さらに業務への理解やモチベーションにつながります。試験のためではなく、日常業務にも役立つ内容であることを、候補者にも理解してもらいましょう!


介護の日本語123

日本語教師のグループ。専門は日本語教育学。EPA介護福祉士候補者と留学生への介護の日本語教育を行う。「介護の日本語」という専門日本語教育の必要性から介護施設の協力を得ながら、その学習項目・指導法・カリキュラムを構築し、現場重視の実践的な教育を研究している。