介護福祉士国家試験のための専門用語学習(1)
国家試験に向けて学ぶべき日本語とは
2008年のEPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者の受け入れに始まり、在留資格介護、技能実習生、特定技能と、外国人介護従事者を受け入れる枠組みは多様になっています。受け入れの枠組みによって、外国人介護従事者の就労のしかた、キャリアの積み方が異なりますが、介護福祉士国家試験(以下、国家試験とします)を受験するかどうかは、非常に大きなポイントになります。
それでは、国家試験を受験する外国人介護従事者は、それに向けてどのような日本語を学ぶ必要があるのでしょうか。
佐野他(2013)では、EPA介護福祉士候補者が求められる日本語能力として、
- 一般日本語運用能力(買い物、交通機関利用、教会での会話など、日常生活に必要な日本語の能力)
- 日常業務遂行上の必要日本語能力(業務に関連する口頭表現能力および読み書き能力)
- 国家試験受験のための日本語能力(国家試験のための漢語語彙と専門知識を理解する日本語力)
の3つを挙げています。これら3つはお互いに重なる部分はありますが、それぞれカバーする内容が異なります。ここでは、「3. 国家試験受験のための日本語能力」について考えてみたいと思います。
国家試験の筆記試験は、すべて5択の選択式で、記述問題はありません。国家試験受験ということだけで言うと、日本語を書く能力は求められず、国家試験の質問内容を理解する能力が必要ということになります。それでは、国家試験の質問内容を理解する上で、どの程度の文法知識、語彙知識が必要なのでしょうか。
国家試験の日本語の特徴を調査した大場(2017)では、文法については、「筆記試験には、1級の文法項目は殆ど出現せず、2級も限られた文法項目の出現である」としている一方、語彙に関しては「名詞は級外が1757語で47.7%を占めており、専門語彙の頻出が予測される」としています。
つまり、文法は(旧日本語能力試験の)1級、2級といった上級レベルのものは非常に限られていて、それほど難しいわけではないが、語彙に関しては、半分近くが級外と一般の日本語教育ではカバーできないものだということです。
看護師国家試験の試験対策について、岩田・庵(2012)では、「日本語能力試験基準で考えない文法圧縮・語彙集中型の教育」を提案していますが、介護福祉士国家試験についても文法学習よりも語彙学習、特に専門用語学習が重要だと思われます。
参考文献:
- 岩田一成・庵功雄(2012)「看護師国家試験のための日本語教育文法 必修問題編」『人文・自然研究 (6) 』pp. 56-71
- 大場美和子 (2017)「介護福祉士国家試験の筆記試験における文法・語彙項目の分析」『小出記念日本語教育研究会25』pp.5-19
- 佐野ひろみ・杉山朗子・橋本洋輔・中川健司(2013)「EPA 看護師候補生のための医学術語トレーニングペーパー」『2013年度日本語教育学会秋季大会予稿集』pp.350-355