介護福祉士国家試験のための専門用語学習(2)
国家試験に出現する語の特徴
前回の記事「受験に向けて学ぶべき日本語とは」で、国家試験を受験する上で、文法学習よりも語彙学習、特に専門用語学習が重要だということを書きました。それでは、国家試験では、どのような語が出現するのでしょうか。
中川(2015)では、国家試験で用いられる特徴的な語として、
- 介護専門用語
- 生活場面で用いられる語
- 国家試験の出題形式に関係する語
の3つを挙げています。それぞれについて解説します。
1. 介護専門用語
介護専門用語ですが、「利用者」「介護職」「認知症」のような介護で用いられる専門用語だけでなく、「対応」「低下」「支援」のように、一般的な語であるが介護の文脈でよく用いられるものが含まれます。
ほかに1に分類される語としては、以下のようなものが挙げられます。
- 介護福祉の概念(例:ADL)
- 制度(成年後見制度)
- 施設(ユニット型特別養護老人ホーム、障害児入所施設)
- 法律(育児・介護休業法、社会福祉事業法)
- 介護時の動作(声かけ)や作業(清拭)
- 利用者の症状(右片麻痺)
- 疾病(糖尿病、前頭側頭型認知症)
2. 生活場面で用いられる語
生活場面で用いられる語ですが、国家試験の事例問題では、利用者(介護を受ける者)の健康状態や生活の様子を記述した後にどのような対応が必要か、が問われます。そのため「家族」「生活」「食事」などの語が数多く用いられます。
- 親族の呼称(息子夫婦)
- 住居(浴室、敷居、玄関マット)
- 食品(お茶漬け、淡色辛みそ、菓子パン)
- 衣類(毛玉)
- 趣味(サッカー選手、出展作品)、
1の「介護専門用語」に難しい語が多く出てくるのは想像に難くないですが、この2の「生活場面」で用いられる語も外国人介護従事者にとって理解が難しいものが少なくありません。
介護の業務を行う際には利用者の日常生活の状況について理解する必要がありますが、国家試験には、「位牌」や「はたき」など日本独自のものも少なからず出てきます。中には、日本で生活していても、日常的に触れることがあまりないものもあります。
過去の国家試験に「畳の目に沿って拭く」「茶殻をまいて掃く」といった表現が出てきました。和室がない家も増えている昨今、このようなことを日常的にはしない日本人も結構多いのではないでしょうか。
3. 国家試験の出題形式に関係する語
国家試験の出題形式に関係する語というのは、はすべてこの3に分類されます。たとえば、第25回試験の問題3の
介護職と利用者のコミュニケーションを促す場面づくりに関する次の記述のうち、最も適切なものを一つ選びなさい(第25回試験の問題3)
に出てくる「もの」「一つ」「次」「記述」といった語がこれにあたります。
すべての問題に出題文があるため、試験全体で見ると、出題文で多く用いられる言葉は出現頻度が高くなるわけです。
ただ、この「国家試験」の出題形式に関係する語というのは、パターンがある程度決まっているので、一度学んで意味を理解してしまえば、それほど難しいものではないのではないでしょうか。
このように、国家試験には非常に多様な語が出てきて、それを理解する必要があるのですが、外国人介護従事者にとってその壁はかなり高いものになっているのではないかと思います。
参考文献:
- 中川健司(2015)「介護福祉士国家試験カリキュラム変更に伴う使用語彙の変化に関する調査」 『専門日本語教育研究』 17(1) 53-58